秋田のさおりさんの感想
駄目ですよ,風さん! 孝和が亡くなる十年前に鬼籍に入っているはずの幸恵さんが,孝和の最後を見取るなんてルール違反です.一人の作家が描く歴史世界が首尾一貫してないと,読者は混乱しちゃいますよぉ〜.
あっ 失礼致しました.お久しぶりです,秋田の**さおりです.秋田は桜の季節も過ぎ,千秋公園では躑躅(つつじ)が今を盛りと咲き誇っています.今日は職場の躑躅見会です.
幸恵さんの孝和没後の行動はとても共感できるものでした.幸恵さんの優しさがにじみ出ています.アプリルと卯月を同一人物と誤解してしまうのはやむをえない事.最愛の人の遺児に対し,望んでも決して日の当たる道を歩めない者に対し,出来うる限りの情愛を注ぐ姿には,私も斯くありたいと・・・.しかし単純な私は,アプリルに対し幸恵が深い猜疑心を抱いた事が理解できないのです.私であったら,「孝和の幼なじみ」として自分の中で処理していた事でしょう.
小生意気な少年だった冒頭部分は,主人公に感情移入するのが難しく,読み進むのに時間が掛かってしまいましたが,孝和の出生の秘密が明らかになったあたりから,俄然面白くなり,ぐいぐい物語に引き込まれました.肉親がこの世に存在しない孤独感・寂寥感は如何ばかりであったろうかと(本質的には理解できないのですが),胸が押しつぶされる思いでした.
中盤,突きつけられた現実を素直に受け止め,決して精神的にねじれる事無く,素直に新しい人生を受け入れる孝和に対しては驚くばかりでした.
実直な坂田氏,お優しいお楽の方,非常に思慮深い井上筑後守政重,若く溌剌としている建部兄弟.孝和の生涯を彩る様々な登場人物それぞれが,物語の中で生き生きと動き,ほぼ全登場人物に感情移入してしまった私です.
脇役の登場人物にまつわる話の中では,池田氏関係の話が深くココロに残りました.冒頭部分で意味ありげに登場した割には,その後なかなか登場せずやきもきしていたのですが,後半部に市井の数学者として描かれていました.能力に見合った環境に無い不幸を背負っているにも係わらず,数学に対する情熱を失っていない池田氏.お多福の看板娘との軽妙なやり取りが微笑ましく,思い入れをした途端不幸な死を迎える事になってしまった池田氏.
#このあたりを読んでいた私の頭には,今週最終回を迎えた「鬼平犯科帳」のエンディングテーマがずっと流れ続けておりました.
昨年学会で会津若松に行った私としては,保科正之の名前が挙がるたびにドキドキしていたのですが,孝和との絡みが無くてちょっと残念でした.
一番印象的だったのは,実は「あとがき」です.
「初期の和算書の分析から,関孝和やそれ以前の和算家と宣教師との関係を明らかにしたのは,和算の泰斗と呼ばれた故平山諦博士である・・・」のくだりで,和算とキリシタンの関係はフィクションではないと確認,驚きました.
また,あとがきの最後の部分.「私は,「先生とキアラ神父との関係を教えて下さい」と手を合わせたのである. しかし,墓は無言のままだった」これには,泣けました.ここが一番泣けました.
散漫な感想になってしまいました.申し訳ありません.
面白い小説をありがとうございました.
では,また.
≪ 米の秋田は酒の国 ≫